「3日後に人類が滅ぶことが明らかになりました」
いつものニュースを読むのと何も変わらない口調で、テレビの中のアナウンサーが淡々と告げた。
どうやらドッキリではない。今日はエイプリルフールでもない。
冗談や、根拠のないことを電波に乗せるような局でもない。
どうもそれは、避けようのない事実らしい。
世間は騒然となった。
一方の私はと言えば、それどころではなかった。
肺に灰が溜まって呼吸ができなくなる病気で、余命宣告を受けていたからだ。
余命は、一日。
私の肺は、もう灰で埋まりかけていた。
そんな中、私は退院した。
どうせ人類はあと3日で滅ぶのだ。延命治療の意味はない。
だったらとっとと退院して、家族と最期のときを過ごした方がいい。
医師にも私にも、異論はなかった。
久しぶりの外を歩く。
少しだけ走ってみる。
すぐに息が上がり、肺がヒューヒューと悲鳴を上げる。
それでも私は嬉しかった。
そう、私は嬉しかった。
3日後に人類が滅ぶと聞いて、嬉しかった。
明日死ぬかもしれないのがあんなに怖かったのに。
今はもう、人類が滅ぶまでなんとか生きればいいだけだ。
余命はもう関係ない。私はみんなと一緒にいられる。
私はみんなと一緒に逝ける。
そのことに安堵した。
だから3日後までは、なにがなんでも生きないと。
私は3日を生き抜いた。肺は限界だった。
今夜、深夜3時に人類は滅ぶという。
私たち家族は、みんな一緒に布団に入った。
最後の話をした。
なんか滅ぶ感じしないね、と笑い合った。
寝たらもう目覚めないんだね。おやすみ。ありがとう。
そうして眠りについた。
明るい光を感じて目が覚めた。
時計を確認する。6時。朝の。
何事もなく朝が来た。人類は滅びなかった。
予報は、はずれた。
なんだ、滅びないんじゃん。なんだったんだろうね、と笑い合う家族の横で
死にたくない、と私は泣いた。
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