さかなさんですどうもこんにちは!
初めての書評に挑戦です。
紹介する本はこちら。
私が著者である井上荒野さんに初めて出会った作品です。
そして、私がブログを始めるきっかけになった、とても大切な本でもあります。
- ブログやライティングなど、「誰かに何かを伝える」ことを仕事にしている
- 生や死について考えるのが好き
- 純文学が好き
著者・井上荒野(いのうえあれの)とは
井上荒野さんは1989年に『私のヌレエフ』で第一回フェミナ賞を受賞してデビューしました。
2008年に『切羽へ』で第139回直木賞を受賞しているので、直木賞作家と呼ばれる事もあります。
ですが、私としては井上荒野さんを直木賞作家と呼ぶのは正直ピンと来ません!!!
何故なら井上荒野作品は純文学が至高だからです!!!(個人的見解です)
直木賞は大衆小説=エンターテインメント性の高い小説に与えられる賞なので、
どうも井上荒野さんの作品のイメージに合わない気がするんですよね。
直木賞を受賞した『切羽へ』も私の中では純文学の鑑のような作品として位置づけられてます。
そんな井上荒野さんの文章の特徴は
「書かずに、書く」
ことだと私は思っています。
そしてこれが、私が井上荒野作品を至高の純文学だと思う所以でもあります。
井上荒野さんの文章には、直接的な心理描写は殆ど出てきません。
文章もどちらかというと淡々としています。
その淡々とした文章の中で、機微を読ませる。人柄を読ませる。人生を読ませる。未来までをも読ませる。
その技術が並外れています。
「何かが起こりそうな空気をずっと孕んでいるけど、結局何も起こらない」
という事が多いので、井上荒野作品は「不穏」なんて言われることもあります(笑)
(ちなみにちゃんと何かが起こることもあります)
「赤へ」はどんな本?
今回紹介する「赤へ」は、『死』にまつわる短編集です。
身近な一人の死が変えてしまうもの、変わらないもの――
そういったものを描いた短編が10編収録されています。
先述の通り、井上荒野さんは「書かずに、書く」技術がずば抜けた作家さんなので
その技術が遺憾なく発揮される短編は特に至高だと私は思っているんですが
中でもこの「赤へ」は完成度がとんでもなく高いです。
どの話一つとってもまるで長編小説を読んだ後のような読後感、充実感が味わえます。
『死』をテーマにしているので、重いと言えば重いんですけど
重いだけじゃない。井上荒野さんの作品には、未来を感じるんですよね。
そこもまた、私が井上荒野作品が大好きな理由の一つです。
収録されているどの話も大好きなんですが、
私がブログを始めるきっかけになった「どこかの庭で」を特にフィーチャーしてご紹介したいと思います^^
「どこかの庭で」――さかなさんがブログを始めるきっかけになった話
主人公は40代の主婦、織恵。
織恵はとある「庭ブログ(庭のことをテーマにしたブログ)」が好きで、そのブログを追いかけ、真似をしながら自分の庭を作っていく。
ところがある日、ブログの著者に病気が見つかって…
という話。
主人公の織恵と、作中のブログの著者は知り合いでも何でもありません。
それどころか織恵はブログにコメントすらした事はありません。
それでも織恵は間違いなくそのブログに影響を受け、前を向く勇気をもらい、自分の現実を良い方へと変えるために行動を変えて行きます。
最終的にはそのブログの更新は止まってしまうんですが
間違いなく、織恵の心にはその文章が生きています。
これはもちろんフィクションなんですけど、すごい、と思ったんですよね。
名前も顔も、存在すら知らない相手にここまで影響を与えられるブログって、すごい、と思いました。
自分も誰かを励ましたい。勇気づけたい。安心させてあげたい。
願わくば、こんな風に誰かの心の中に生きてみたい。
何もない自分でも、ブログならそれができるのかも知れない。
そんな風に思いました。
元々学生時代に日記代わりにブログをやっていて始めるハードルが低かったとか、
またやりたいと漠然と思ってたとか、
そういうベースはあったものの
最後の一押しというか、トリガーになったのは間違いないです。
ブログ書いてる人は是非この話だけでも読んでみて欲しい^^
きっと「誰かに届く記事」が書きたくなるんじゃないかと思います。
井上荒野「赤へ」――その他の収録作品紹介
「虫の息」
大学生の諭と未香里がバイトする市民体育館に、ある日2人の老婆がやってくる。
お揃いの水着を着たその2人は、周囲に若干の迷惑と心配をかけながらも毎日やって来るが、ある日一方の老婆が倒れて…
というお話。
この「赤へ」が初めて読んだ井上荒野氏の本で、その本の一番最初の話なので、正真正銘これが初めての井上荒野なんですが
独特すぎて実は最初尻込みしました(笑)
滑稽で、何故か切ないお話です。全体に漂う空気感も終わり方も、本当に独特。
「時計」
姉妹のように育った、別荘の所有者の娘・沙月と、管理人の娘・晶。
東京へ出ていた晶は2年振りに別荘へ遊びに行くが、今年はどこか様子が違っていた。
実はこの家族には秘密があって…
たった20ページほどの短編なのに、それぞれのキャラクター、人生、関係性、空気感、そしてこれからがくっきりと描き出されます。
「書かずに、書く」
何度読んでも井上荒野さんの筆力に脱帽してしまいます。
「逃げる」
特に悪びれる事もなくおこなっていた自分たちの「悪いこと」のせいで、無関係の――或いは、誰よりも関係のある――一人の命が失われてしまったら…
逃げることしかできなかった男と、逃げることさえできない女の話。
「ドア」
自分でも気付かない位に小さく、そっと芽生え始めていた恋心。
その小さい恋心に気付かないうちに、ある日突然その相手を失ってしまったら…
誰にも気付かれなかったその恋は行くあてもなく宙を漂い、ただドアが開くのを待つ。
そんなお話。
「ボトルシップ」
中学の同級生、Hの死がつないだ不思議な縁。
その縁を鬱陶しく思っているはずなのに、
心のどこかでは彼を救いたい、そうする事でかつての自分をも救いたいと思っている私。
読後、「結局何だったの!?」とちょっとモヤモヤが残ります。
でも2回読むと色々と腑に落ちます。
同じ経験をした者同士じゃないと分からないことって、どうしても、あるよね。
「赤へ」
妻を失った男と、娘を失った義母。
2人は互いにその「ひとりの女の死」を相手の責であると思っており、同時に本当は自分のせいだと思っている。
それは「責を分かち合う」ということ。
切なくて苦しいのに、なぜか少しだけ胸が温かくなる不思議な読後感の作品です。
なんとなく…この男は今後も義母の元を訪れる事になるんじゃないか、という気がする…。
「十三人目の行方不明者」
幼馴染の妻であるあゆみ。
あゆみに恋心を寄せる護。
幼馴染である勇介が洪水の夜に失踪し、護はあゆみと恋仲になる。
しかし失踪から6年経ったある日、勇介がふらりと戻ってきて…
という話。
あと1年で結婚できたのに(失踪から7年経つと死亡した事にできるため、離婚が可能になる)、
『あの洪水の日』から俺がずっとあゆみに寄り添ってきたのに…
護の歯がゆさ、悔しさ、居たたまれなさ、どこにも行けない辛さ
そういうものが痛いほどに伝わって胸が苦しくなります。
でも結局は護もあゆみも、互いを利用していたに過ぎないんですよね。
そして最後に護ははっきりとそれを自覚してしまう。
人間の身勝手さを感じます。
「母のこと」
著者の母が亡くなった直後に書かれたエッセイです。
母への思いやり、母からの思いやり…
母子の深い愛が伝わってくる良作です。
「母のことがとても好きだった。母が死ぬなんて耐えられない、とずっと思っていたが、案外しのいでいる」
「雨」
娘の幼馴染が自殺した。自殺した子の両親はいじめを疑っているという。
娘の携帯を盗み見た母が目にしたのは、幼馴染の自死の報に対する、娘の「ウケる」という返信――
子を持つ親として、最初から最後まで胸がザワザワと痛い作品。
自分だったら、と考えずにはいられないし、どうかどうか、と何かを祈らずにはいられません。
最後のページで、何でか分からないけど、涙が流れました。
喜びでも哀しみでもない、多分、祈りの涙。
「赤へ」はいいよ!井上荒野いいよ!
「どこかの庭で」以外の収録作品も大好きなので、さくっと紹介させていただきました^^
気になる作品があったら是非『赤へ』を手に取ってみて下さいね!
井上荒野作品の独特な雰囲気と余韻には中毒性がありますよ〜🎶
読んだら是非、皆さんの感想も聞かせてね!
ブックレビューサイト『RUKI BOOKS』でインタビューを受けました!
ブックレビューサイト『RUKI BOOKS』さんの『想い出の一冊』というコーナーで取り上げていただきました!
こちらはゲストのおすすめの一冊を運営者であるRUKIさんが実際に読んで、レビューしたりゲストと語り合ったりするコーナーです。
私のおすすめはもちろん当記事で紹介した『赤へ』。なんせブログを始めるきっかけになった本ですからね^^
私の感覚的なレビューとは一味違ったレビューが読めます!ぜひ読んでみてください!
おしまい
『誰かを励ましたり、勇気づけたり、安心させたりしてあげたい』
そんな思いのこもったさかなさんの記事です⇩
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